プロジェクトヒストリー

芝を傷めない油圧四輪駆動 フロントアクスルを開発

乗用芝刈機はそのフィールドが芝の上である為、常にタイヤで芝を踏みつけながら走行しなければならない。
二輪駆動であればよほどの急発進や急停車をしない限り、然程芝を傷めることはないが、四輪駆動になると旋回するだけで容易に芝を傷めてしまう。たとえ綺麗に芝を刈り取ることが出来ても、タイヤが芝を傷つけては本末転倒である。そこで、芝を傷めない油圧四輪駆動用フロントアクスル(HFWD)を開発するに至った。
本開発の中で生まれた特許「四輪駆動型芝刈機用の車軸駆動装置(特許第4521627号)」は、平成23年度近畿地方発明表彰において近畿経済産業局長賞を受賞した。

図1:平成23年度近畿地方発明表彰近畿経済産業局長賞受賞

旋回性能における特徴

芝刈機を含む一般的なトラクタの四輪駆動の構造は、ドライブシャフトを介して後輪と前輪との間を機械的に連結する為、後輪と前輪との速度比が固定されてしまう。
直進時はそれで問題ないが、旋回時には後輪が描く旋回半径と前輪が描く旋回半径の比が操舵角に応じて変化する為、後輪と前輪との回転速度比が固定されていると上手く旋回することが出来ない。

図2:一般的な四輪駆動トラクタの旋回軌道

図2が示すように、旋回半径比と回転速度比との差異はタイヤの引きずりとなり、結果として芝を傷めてしまう。四輪駆動の走破性を確保しつつスムースに旋回するためには、後輪もしくは前輪のいずれか一方の回転速度比を操舵角に応じて変化させる必要がある。

図3:可変モータによる前輪回転速度の変更

図3は、油圧ポンプと油圧モータを組み合わせたリアトランスミッションと、2つの油圧モータを並列に配置したフロントアクスルとを配管で直列に結合した油圧四輪駆動の事例である。

図4:可変モータによる前輪回転速度の変更

油圧四輪駆動用フロントアクスル(HFWD)は、図4のとおり旋回時には可変油圧モータの斜板角が操舵角に連動して変化する仕組みとなっており、後輪と前輪との回転速度比は旋回半径に応じて適切な比に保つことが可能となっている。

図5:油圧四輪駆動用フロントアクスル(HFWD)によるスムース旋回

その結果、図5のように従来機に比べてよりスムースにより小さい旋回半径を描くことが可能となった。

前後輪の回転速度比が与える影響

ただし前輪の回転速度が後輪の回転速度を上回るような設定にしてしまうと、路面を介して後輪と前輪との間で動力循環が発生する為、必要以上の動力を消費してしまうので注意が必要である。

図6:前後輪の回転速度比と走行圧力との関係

図6の圧力波形が示すように、前輪の回転速度が後輪の回転速度を上回る設定をすると、測定位置Aと測定位置Bにおける圧力の逆転現象が生じる。
本来圧力波形(左)が示す圧力で車両は走行可能なはずであるが、圧力波形(右)は前輪の回転速度が後輪の回転速度を上回る設定にしたことにより、無駄な仕事をしている分だけ余分に圧力が高くなっている。
後輪回転速度に対して前輪回転速度を大きくすればするほど、走行時の圧力はどんどん高くなってしまうが、後輪回転速度と前輪回転速度を一致させれば圧力波形(中)のように測定位置Aと測定位置Bにおける圧力も一致する。
この状態までが動力循環の生じない限界点であり、測定位置Aと測定位置Bにおける圧力はいずれも圧力波形(左)が示す測定位置Aの圧力と一致する。すなわちリアトランスミッションとフロントアクスルとを直列に結合する油圧四輪駆動システムにおいては、前輪の回転速度を後輪の回転速度と同じにするか、またはそれ以下に設定しておく必要がある。
HFWDにおいては油圧可変モータの斜板角を調整することで、前輪の回転速度を自在に設定可能であるが、前輪の回転速度を落とし過ぎると測定位置Bにおいて負圧が生じてしまう為、一定の許容範囲内に留めなければならない。

図7:チェックバルブ追加

しかしながらタイヤの空気圧の状態やアッタチメントによる重量配分の変化によってタイヤの有効半径は変化する為、前輪と後輪の回転速度比は容易に変化する。これらを考慮した上で設定できる回転速度比はかなり狭い調整範囲となる為、一台一台厳密に調整しなければならない。
そこで図7の油圧回路が示すごとく、リアトランスミッションとフロントアクスルとの間を結合する油路にチェックバルブを配置した。これにより多少前輪の回転速度を落とし過ぎる設定としても、負圧が生じないようにした。その結果、回転速度比の設定範囲を大きくとることができるようになり、生産性も向上した。
斯くして芝を傷めない油圧四輪駆動用フロントアクスル(HFWD)は誕生した。

ドライブシャフトレスのメリット

図8 四輪駆動方式の違い

小型車両においては図8(左)のように四輪駆動のドライブシャフトを配置するとモアの上げ高さを十分に確保しにくいという問題があった。モアの上げ高さを十分に確保できなければ、芝刈作業をしない移動走行時などにモアに障害物をぶつける可能性を高めてしまう。
しかし油圧四輪駆動にすればドライブシャフトを必要とせず、代わりに油圧配管を自由に配置することが出来る為、図8(右)のように二輪駆動車両と同じモアの上げ高さが確保可能となる。それにより本機メーカーがこれまで所有していた二輪駆動車両を容易に四輪駆動へと仕様変更することが出来るようになった。

おわりに

丘陵地の多い欧州ではそもそも四輪駆動のニーズが高かったため、走破性の高いアッカーマン式の油圧四輪駆動用フロントアクスル(HFWD)は非常に歓迎された。欧州で開催される農業機械のショーでは、泥の傾斜地を走破する体験走行を実施しているメーカーを見かけることもあった。
今後も、このように顧客から愛される商品を開発していきたい。

 製品情報 フロントアクスル

一覧へ戻る

その他のプロジェクトヒストリー